それが「デスノート」だ。

名前を書かれた者をしに至らしめる、死神のノートを手にした夜神月(ライト)を主人公に、無名の原作者・大場つぐみさんがつむぎ出す緊迫のストーリーと「ヒカルの碁」の小畑健さんが描く繊細で個性的な絵で、読者を瞬く間に魅了した。
5月15日発売分の108話でついに幕を閉じたが、同時にデスノートは映画、アニメ、ゲーム、小説への展開が発表されるなど話題は尽きない。
「デスノート」とは何だったのか、改めて振り返ってみた。
■衝撃の終幕
絶対絶命のピンチに追い込まれたライトが死神リュークに助けを求める。
その姿にリュークは「俺にすがる様じゃな…。お前は終わりだ」「結構長い間互いの退屈しのぎになったじゃないか」と言い放つ。
デスノート107話「幕」の1シーンだ。
そしてリュークはデスノートに「夜神月」と記し、ライトはこれまでの冷徹な姿をかなぐり捨て、無様にわめきながら、「地獄にも天国にも行けない」というデスノートを手にした者の定め通りの最期を迎える。
エピローグといえる108話「完」では、「キラのいた世界」が終わり、「キラ出現以前」に戻った社会に違和感を感じる主要人物たちと「キラ」に祈りを捧げるなぞめいた人々が描かれる。最後まで深読みしたくなるような終幕だ。
■ぶつかり合う“正義”
単行本10巻までの単行本の発行部数は1800万部を突破する大ヒットを記録した「デスノート」。
主人公のライトは、警察庁刑事局長・夜神総一郎の長男で、成績優秀、運動神経抜群、容姿端麗と非の打ちどころのない高校生だ。
ある日、「名前を書かれた人間は死ぬ」と書かれたノートを拾い、犯罪者や不良の名をノートに記して、その力を知る。
ライトは人を死に至らしめるという苦悩や恐怖を乗り越え、犯罪者の名前を次々と書き込み、「正義の裁き」を下していく。リュークがデスノートを人間に拾わせたのも、ライトがデスノートを使ったのも「退屈だったから」だ。
次々と犯罪者たちが消えていく中で、世間は彼を救世主とうわさし「キラ」と名付ける。そこに、世界の警察を動かせる唯一の存在で、なぞの天才捜査官・Lが登場し、キラに宣戦布告する。互いに正義≠確信する二人は「必ずお前を捜し出して始末してやる」と誓う。
総一郎と共に捜査を進めるLは、息子であるライトに「5%」の疑いを持ち、ライトと同じ東大に進んで、入学式で「L」であることを明かす。Lはライトへの疑いを深めながら、捜査協力をに引き込み、ライトは「Lを信じ込ませて最後は殺す」と直接対決に臨む。
■マンガを超えた心理描写
デスノートには、「書く人物の顔が頭に入っていないと効果がない」「名前の後に40秒以内で死因を書くと、その通りになる」「死因を書くと更に6分40秒間、詳しい死の状況を記載する時間が与えられる」などの使用の詳細なルールが定められていることが、ライトの行動を制限し、Lはそれを手掛かりに事件のなぞに迫っていく。
二人の天才による心理戦は、言動を互いに読み合うことで展開するため、延々とモノローグが続き、互いに無表情で動きもない。ほとんど小説を読んでいるような感覚と言っていいだろう。
少年マンガとは思えない複雑なストーリーを描く原作の大場さんは、性別、年齢などくわしい情報は一切不明。
デスノートで原作デビューしたことだけが分かっている。
写真をトレースしたような高い画力を持つ小畑さんが、ライトとLのわずかな表情の変化を描き分け、緊迫した心理戦を際立たせている。担当編集者の吉田幸司さんは「原作を読んで、小畑さんしかいない」と直感したと振り返る。
物語は、もう一冊のデスノートを手にした弥海砂(あまね・みさ)の登場で急展開する。
ミサは、両親を殺した強盗犯をキラが裁いたことで、キラの信奉者となる。
人気モデルで一途な美少女ミサは、そのノートの持ち主である女性の死神レムと取り引きし、寿命の残り半分と引き換えに、人間の本名と寿命を一目で見ることができる「死神の目」を手に入れてまで、キラであるライトに尽くす。レムはそんなミサを守ろうと優しさを見せる。
この二人の「女性」の登場は、Lとライトの息詰るような戦いの中で、いい息継ぎをさせてくれる。
ミサの登場でLのライトへの疑いが深まり、とうとう2人は24時間手錠でつながったまま、「キラ」の捜査をするという展開となり、緊迫の度合いは増していく。
吉田さんは「『近いのに遠い』という人間関係の矛盾や違和感が出せたのでは」という。第1部のラストでは、ライトの正体にLが気づく寸前に、レムの優しさを利用し、ミサを守るために死神のルールを破らせてLの名をデスノートに記させ、2人の戦いの決着が付く。レムは「死神を殺すとは、死神を超えている」とライトを評しながら砂と化して消えていく。
■ネットを駆け巡る話題
正直言って大人が読んでも頭が疲れるような本格サスペンスだが、連載開始と同時に人気に火が着き、04年4月に発売された単行本第1巻は、ジャンプ史上最速で100万部を突破した。
読者アンケートでは、小学生が中心に大人まで幅広い読者層を持つ同誌の中で、デスノートファンは中学生以上の層が圧倒的な支持を寄せ、常に上位をキープ。マンガ通を自認するブロガーたちが自身のブログで絶賛すると次から次へとネット上の口コミが広まった。
掲示板では、毎週毎週「ライトの仕掛けたわなとは?」「あのルールを使った展開だとこうなるはず」などの作品のなぞ解きや深読みで盛り上がり、デスノートのふきだしを変えてギャグをつくる「デスノコラ」や原作者大場つぐみの正体探しなども話題となり、人気に拍車を掛けていった。
マンガ評論家の伊藤剛さんはこうした動きについて、「ネットであれこれ語り合いながらマンガを追いかけていく楽しさがあった。こうした同時性を楽しんだマンガは久々」と評価する。
■広がり続ける世界
ライトが警察官となり、「L」の立場を継ぐ第2部では、Lの後継者となるべく育てられてきたニアとメロとの対決が描かれ、ライトの最期へと物語が進んでいく。吉田さんは大場さんに「必ずライトに罰を与えるような展開にして欲しい」と依頼し、冷酷に勝ち続けてきたライトが、デスノートを使った者の罪を清算する形で完結した。
最終回の次ページには「超特報 広がり続ける『デスノート』世界(ワールド)!!」と題して、日本テレビ系でのアニメ化、06年冬にコナミデジタルエンタイエンメントからのゲーム化、6月にトリビュートアルバムの発売などが一気に発表された。
藤原竜也さん(24)主演の実写映画は、前後編が6月、10月に前後編の連続公開が決定。
10代を中心にヒットを続ける小説誌「ファウスト」(講談社)で「デスノート」と同じく心理サスペンス小説「戯言」シリーズを手がけてきた西尾維新さんによる小説が8月に発売されるが、吉田さんがジャンプの目次の「編集部からの一言」コーナーで西尾さんの作品を絶賛し、原作の大場さんも「小説にするなら西尾さんで」と希望で実現したという。
ジャンプに突然登場し、人々の目を引きつけながら、すい星のように過ぎ去ったデスノート。
余韻を増しつつ、新たな輝きを見せてくれそうだ。